心のいろどりパレット

境界性パーソナリティ障害の複雑な感情へのアートセラピー:色と形による表現とセッション展開

Tags: 境界性パーソナリティ障害, アートセラピー, 感情調節, 臨床心理学, セッション技法

はじめに

境界性パーソナリティ障害(BPD)のクライアントは、激しい感情の不安定さ、衝動性、自己像や対人関係の不安定さといった特徴を示し、その内面はしばしば極めて混沌としています。感情は強烈かつ急速に変化し、言語化が困難であったり、言葉が感情に追いつかない感覚を抱えたりすることが少なくありません。このようなクライアントにとって、非言語的な表現手段であるアートセラピーは、内的な体験にアクセスし、表現し、理解を深めるための強力なツールとなり得ます。

本稿では、境界性パーソナリティ障害のクライアントが抱える複雑な感情や不安定な自己・他者関係が、アートワークにおいて色や形としてどのように現れうるか、そしてその表現をどのように臨床的に読み解き、セッションを構成していくかについて、専門家向けの視点から考察します。アートを介した表現と臨床家の介入が、クライアントの感情調節能力の向上や内的な統合プロセスをいかに支援できるかに焦点を当て、実践的なアプローチを提示します。

境界性パーソナリティ障害における感情とアート表現の特性

BPDのクライアントの内的な体験は、「オール・オア・ナッシング」的な思考や感情の二極化(スプリッティング)を伴うことが多く、これがアートワークにも反映される場合があります。

これらの色彩や形態は、クライアントの言語化されにくい内的な状態、特に感情調節不全、自己の断片化、不安定な対象関係を理解する手がかりとなります。

アートセラピーの理論的背景と有効性

境界性パーソナリティ障害へのアートセラピー介入は、複数の理論的視点からその有効性が支持されます。

アートワークは、言語化が困難な強烈な感情に対し、安全な距離を置いて向き合うことを可能にします。また、混沌とした内面を具体的な形として外在化することで、構造化されていない感情や体験を視覚的に整理し、内的な体験に意味を与え、統合していくプロセスを支援します。

具体的なアートセラピー手法とセッション展開例

BPDのクライアントに対するアートセラピーでは、構造と柔軟性のバランスが重要です。安全な枠組みの中で、クライアントが自由に感情を表現できる空間を提供します。

1. 「感情の波」を色彩と形態で描くワーク

2. 「内なる部分」を描くワーク

実践上の留意点と応用例

結論

境界性パーソナリティ障害のクライアントが抱える複雑で不安定な感情や自己・他者関係は、言語化が困難であるからこそ、アートセラピーによる非言語的な表現が非常に有効なアプローチとなり得ます。色や形として外在化された内的な体験は、クライアント自身が自身の感情や自己像、関係性のパターンに気づき、距離を置いて観察するための媒体となります。

経験豊富な臨床心理士として、クライアントのアートワークに現れる色彩や形態、構成といった視覚的な要素から、その内的な力動や感情の状態を丁寧に読み解き、適切な声かけやインタラクションを通じて、クライアントの自己理解と感情調節能力の向上を支援することが求められます。安全な治療関係を基盤とし、アートワークを通じて表出されるクライアントの強烈な感情や混沌とした内面に対し、共感的に寄り添いながら構造を提供していくプロセスは、クライアントの内的な統合と回復に向けた重要なステップとなるでしょう。

本稿で提示した手法や視点が、臨床実践におけるアートセラピー活用の深度を高める一助となれば幸いです。